災害が起きたとき、高齢の親や、体が不自由な家族を、どうやって安全な場所まで連れて行けばいいのか——考え始めると、不安になる方も多いのではないでしょうか。実は、こうした「自分の力だけでは避難が難しい人」を支えるための制度が、法律で市区町村に義務づけられています。それが「避難行動要支援者名簿」と「個別避難計画」です。名前を聞いたことはあっても、誰が対象で、名簿に載るとどうなるのか、実際の仕組みまで理解している方は多くありません。この記事では、内閣府・神奈川県・横浜市・川崎市・藤沢市の公式情報にもとづいて、この制度の仕組みと、家族としてできることを整理して解説します。

  • 避難行動要支援者名簿は、自力での避難が難しい高齢者・障害者等を対象に、市区町村が作成することが法律で義務づけられている制度
  • 個別避難計画は、名簿に載った人ごとに「誰が」「どこへ」「どう支援するか」を具体的に決める計画で、市区町村の努力義務
  • 名簿情報は本人の同意を得たうえで、平時から自治会・民生委員・消防などの支援組織に共有される仕組み

なお、この制度には「名簿に載っていれば災害時に必ず助けに来てもらえる」と思い込むと見落としやすい注意点が1つあります。これについては記事の後半で説明します。まずは、避難行動要支援者名簿がどんな仕組みで動いているのかから確認していきましょう。

避難行動要支援者名簿とはどんな制度?

避難行動要支援者名簿とはどんな制度? 災害対策基本法にもとづき、自力での避難が困難な高齢者・障害者等について、市区町村が作成することを義務づけられている名簿です。

この制度は、2011年の東日本大震災がきっかけで生まれました。内閣府の説明によると、当時、障害者や高齢者などへの情報提供や避難支援が十分でなかったことが大きな課題として浮かび上がり、名簿の整備・活用を進める必要があるとされたため、2013年(平成25年)の災害対策基本法改正により、避難行動要支援者名簿の作成が市町村の義務とされました。

対象となるのは、高齢者・障害者・乳幼児その他の特に配慮を要する人(要配慮者)のうち、災害が発生した場合に自ら避難することが困難で、円滑かつ迅速な避難の確保を図るために特に支援を要する人です。神奈川県の案内では、具体的には要介護認定を受けている高齢者、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人、妊産婦、日本語を十分理解できない外国人なども含まれるとされています。どこまでを名簿の対象とするかの具体的な基準は、市区町村ごとの要綱・条例で定められています。

在宅で高齢の家族を介護している方にとって、この名簿は「もしものときに地域から見守ってもらえる」仕組みの入り口です。高齢者の紙おむつ支給・助成制度のように、在宅介護には自治体独自の支援制度が数多くありますが、避難行動要支援者名簿もその一つとして、要介護認定を受けたタイミングで案内が届くことがあります。心当たりのある案内が届いていないか、一度確認してみる価値があります。

名簿に載ると、名前や住所は誰に伝わるの?

名簿に載ると情報はどう扱われる? 平常時は本人の同意を得たうえで、自治会・自主防災組織・民生委員・消防などの「避難支援等関係者」に情報が共有される仕組みです。

ここが、この制度の中で誤解されやすいポイントです。名簿への登録=個人情報が無条件に地域中へ公開される、というわけではありません。内閣府の取組指針によれば、名簿情報は平常時から避難支援等関係者(消防機関、都道府県警察、民生委員、社会福祉協議会、自主防災組織等)に対して、あらかじめ本人の同意を得ることを原則として提供されます。

横浜市の案内では、この仕組みを地域の共助体制づくりとして位置づけており、区役所が作成した名簿を、地域の自治会・自主防災組織や民生委員に提供し、平常時からの情報共有を通じて、災害時の避難誘導や安否確認などの支援につなげる活動事例を紹介しています。川崎市でも同様に、区役所への登録申込みにもとづき名簿が作成され、町内会・自治会、自主防災組織、民生委員等の支援組織に提供される仕組みです。

一方で、法律上は例外も定められています。災害が実際に発生し、または発生するおそれがある場合には、避難行動要支援者の生命・身体を災害から保護するために特に必要があると認めるときは、本人の同意の有無にかかわらず、名簿情報を避難支援等関係者その他の者に提供できるとされています。つまり、平時は「同意した人の情報だけ」が地域で共有される一方、災害発生時(またはその切迫時)に限っては、同意していない人の情報も、命を守るために必要な範囲で使われる可能性がある、という2段構えの仕組みになっています。

避難行動要支援者名簿の情報が、平常時と災害発生時でどう扱われるかを示した図解

「名簿に登録すると、知らない人にまで自分の情報が伝わってしまうのでは」と不安に感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、平常時の情報共有は本人の同意が前提であり、共有先も自治会・民生委員・消防など、地域の避難支援に関わる限られた関係者です。同意するかどうかを判断する際は、この「誰に、どんな場面で、情報が渡るのか」を区役所や自治体の窓口で確認しておくと、納得したうえで登録を検討できます。

横浜市が公開している活動事例集では、名簿の提供を受けた自治会・自主防災組織が、対象者宅を戸別に訪問して顔の見える関係をつくり、日頃からの声かけや安否確認の体制を整えている例が紹介されています。名簿は市区町村から地域へ渡して終わりではなく、そこから先、地域の側がどう活用するかによって、実際の見守り・支援の厚みが変わってくる制度だといえます。逆にいえば、名簿に登録しても、地域の受け入れ体制がまだ整っていない場合や、支援者と顔を合わせる機会がないまま時間が経っている場合もあり得ます。案内が届いたあと「登録して終わり」にせず、可能であれば自治会や地域の回覧板・説明会などで、実際にどんな体制で見守りが行われているかを確認しておくと、いざというときの安心感につながります。

個別避難計画は、名簿とどう違うの?

個別避難計画は名簿と何が違う? 名簿が「対象者を把握するための一覧」であるのに対し、個別避難計画は「誰が・どこへ・どう支援するか」を一人ひとりについて具体的に決めた計画です。

名簿と個別避難計画は、しばしば混同されますが、役割が異なります。神奈川県の説明によれば、名簿は避難行動要支援者を把握するための基礎情報である一方、個別避難計画は、名簿に掲載された人のうち、計画の作成に同意した人を対象に、避難支援を行う人(避難支援者)、避難先、必要な配慮などを個別に具体化する計画です。

この個別避難計画の作成は、2019年の令和元年東日本台風(台風19号)などの災害で、多くの高齢者・障害者が被害を受けたことを踏まえ、2021年(令和3年)5月の災害対策基本法改正により、市区町村の努力義務として新たに定められました。名簿作成が「義務」であるのに対し、個別避難計画の作成は「努力義務」という違いがある点は、押さえておきたいポイントです。

避難行動要支援者名簿と個別避難計画を、役割・根拠法・内容・きっかけの4項目で比較した図解

横浜市の案内では、個別避難計画は本人・家族だけでなく、ケアマネジャーや相談支援専門員などの福祉専門職と一緒に作成することが想定されており、2026年度(令和8年度)は、洪水浸水想定区域や避難指示の対象になりやすい地域に住む人から優先的に、計画作成への同意確認書が発送されているとされています。すべての対象者に一律・同時に計画が作られるのではなく、災害リスクの高い地域から段階的に進めている自治体があることがわかります。

藤沢市では、自主防災組織が民生委員と連携し、名簿情報にもとづいて避難行動要支援者への聞き取り調査を行い、個別避難計画の作成や情報共有を進める仕組みを取っています。「個別避難計画作成の手引き」やエクセル版の調査票を公開し、地域の自主防災組織や自治会が計画作成に取り組めるよう支援体制を整えています。

対象になる人の基準は、自治体でどう違う?

対象になる人の基準はどう違う? 要介護認定・障害者手帳の有無を軸にする点は共通していますが、具体的な基準や名簿への掲載方法は市区町村ごとの要綱で定められており、細部は異なります。

内閣府の取組指針は、避難行動要支援者の考え方の大枠(自ら避難することが困難で、円滑かつ迅速な避難の確保を図るために特に支援を要する人)を示していますが、「要介護度いくつ以上か」「障害等級いくつ以上か」といった具体的な線引きは、市区町村が地域の実情に応じて要綱・条例で定める仕組みになっています。

たとえば、高齢者向けの支援制度でも、紙おむつ支給・助成制度の対象要介護度が横浜市・川崎市・練馬区・東村山市でそれぞれ異なっていたように、避難行動要支援者名簿の対象基準も自治体ごとに個別の判断が入ります。同じ要介護度でも、ある市区町村では名簿の対象になり、別の市区町村では対象にならない可能性があるということです。

また、名簿への掲載方法にも違いがあります。本人からの「登録申込み」を前提とする自治体(川崎市のように区役所への申込制)もあれば、要件に該当する人を自治体が把握したうえで案内を送り、同意を確認する自治体(横浜市の個別避難計画の同意確認書のような運用)もあります。お住まいの市区町村がどちらの方式かによって、「自分から申し込まないと名簿に載らない」のか、「該当すれば案内が届く」のかが変わってくるため、思い込みで判断せず、一度お住まいの自治体の防災担当窓口(防災安全課・地域福祉課等、名称は自治体により異なる)に確認しておくことをおすすめします。

登録したあと、状況が変わったらどうすればいい?

登録後に状況が変わったらどうする? 引っ越し・要介護度の変更・入院や施設入所などがあったときは、登録内容の見直しや、名簿からの削除を自治体の窓口に申し出る必要があります。

避難行動要支援者名簿は、一度登録すればそれで完結する仕組みではありません。要介護認定は更新のたびに区分が変わることがありますし、高齢者の紙おむつ支給・助成制度の記事でも触れたとおり、施設入所や転居によって、それまで利用していた制度の対象から外れるケースは珍しくありません。避難行動要支援者名簿も同様に、生活状況の変化にあわせて内容を見直す必要がある制度です。

たとえば、次のような場面では、登録内容の確認・更新が必要になります。

  • 市区町村をまたいで転居した場合:名簿は市区町村ごとに作成・管理されているため、転居先で改めて登録手続きが必要です。前の自治体で登録していたからといって、自動的に転居先の名簿に引き継がれるわけではありません。引っ越しの役所手続きで転入届を提出する際、あわせて防災担当窓口にも相談しておくと二度手間になりません
  • 要介護度・障害等級が変わった場合:更新の結果、対象の基準を下回れば名簿から外れる可能性があり、逆に基準を満たすようになれば新たに対象になる可能性があります
  • 病院に長期入院した場合や、施設に入所した場合:在宅での避難支援を前提にした制度のため、入院・入所中は名簿上の扱いが変わることがあります。退院・退所して在宅生活に戻った際は、あらためて登録状況を確認しておくと安心です
  • 同意した支援者(近隣住民・民生委員等)が変わった、または本人が同意を取り下げたい場合:情報提供への同意は本人の意思にもとづくものなので、状況が変わればいつでも自治体の窓口に相談して、同意内容の見直しや登録の取り下げを申し出ることができます

登録してからしばらく経っている家族がいる方は、今の生活状況と登録内容がずれていないか、一度確認しておくとよいでしょう。特に、要介護認定の更新時期や、転居のタイミングは、確認を忘れやすいポイントです。

家族として、今できることは?

家族として今できることは? 対象になりそうな家族がいる場合は、まずお住まいの市区町村の窓口で名簿への登録状況を確認し、個別避難計画の話が来ていれば早めに相談に応じることです。

ここで、記事の冒頭で触れた「名簿に載っていれば必ず助けに来てもらえるわけではない」という注意点を説明します。名簿はあくまで「対象者を把握し、平常時からの見守り・情報共有につなげる」ための仕組みであり、個別避難計画も、実際の災害時に計画どおり支援が行われることを法的に保証するものではありません。横浜市の案内でも、個別避難計画は避難支援を確約するものではなく、支援を行う人に法的な責任が生じるものでもない、と明記されています。

つまり、名簿や計画は「地域とのつながりを平常時から作っておく」ための土台であって、それだけで安心してよい、というものではありません。家族としてできる具体的な行動としては、次のようなものがあります。

  • お住まいの市区町村の窓口(防災担当課・福祉担当課)で、対象になる家族が名簿に登録されているか確認する。要介護認定や障害者手帳の交付を受けているのに案内が届いていない場合は、自分から問い合わせてみる
  • 個別避難計画作成の同意確認書や案内が届いたら、後回しにせず早めに返答する。特に浸水想定区域や土砂災害警戒区域に住んでいる場合は優先して案内が届く自治体が多い
  • ケアマネジャーや相談支援専門員がついている場合は、個別避難計画の作成について相談してみる。福祉専門職と一緒に作ることで、日頃の身体状況を踏まえた現実的な計画になりやすい
  • 名簿・計画とは別に、家族間でも「災害時にまず誰が迎えに行くか」「どこに避難するか」を話し合っておく。制度はあくまで地域の共助の土台であり、家族の役割分担を代わりに決めてくれるものではない

この記事で持ち帰れること

避難行動要支援者名簿と個別避難計画について、次の3点を押さえておけば、家族の状況に合わせて次の一歩を判断できるはずです。

  • 名簿は「対象者の把握」、個別避難計画は「誰がどう支援するかの具体化」という役割の違いがあること
  • 平常時の情報共有は本人の同意が前提だが、災害発生時(切迫時)に限っては同意がなくても命を守るために使われる場合があること
  • 対象基準や登録方法は市区町村ごとに異なるため、思い込みで判断せず、お住まいの自治体の窓口で確認する必要があること

高齢のご家族や、体が不自由なご家族がいる方は、まずお住まいの市区町村の防災担当窓口や公式サイトで、避難行動要支援者名簿の案内があるかどうかを確認してみてください。すでに要介護認定や障害者手帳をお持ちであれば、それだけで対象になっている可能性があります。

なお、避難行動要支援者名簿・個別避難計画の制度内容や運用は、自治体の条例改正や年度ごとの方針見直しによって変わることがあります。この記事は2026年8月時点で確認できた情報にもとづいています。最新の対象基準・登録方法は、お住まいの市区町村の公式サイトで必ずご確認ください。

よくある質問

Q. 避難行動要支援者名簿には誰でも登録できますか?

A. いいえ、対象は高齢者・障害者・乳幼児その他の特に配慮を要する人のうち、災害時に自ら避難することが困難で特に支援を要する人です。具体的な基準(要介護度・障害等級等)は市区町村の要綱で定められているため、対象になるかはお住まいの自治体に確認する必要があります。

Q. 名簿に登録すると、個人情報はどこまで公開されますか?

A. 平常時は、本人の同意を得たうえで、自治会・自主防災組織・民生委員・消防など「避難支援等関係者」に限って情報が共有されます。ただし災害が発生した場合や発生するおそれがある場合は、生命・身体を守るために必要な範囲で、同意の有無にかかわらず情報が使われることがあります。

Q. 個別避難計画を作れば、災害時に必ず助けに来てもらえますか?

A. いいえ、個別避難計画は避難支援を確約するものではなく、支援を行う人に法的な責任が生じるものでもありません。あくまで平常時から支援の内容を具体化しておくための計画であり、家族間でも別途、避難の役割分担を話し合っておくことが大切です。

Q. 名簿の登録は義務ですか、個別避難計画の作成は義務ですか?

A. 名簿の作成は市区町村の法的義務ですが、名簿への本人の登録(同意)は任意です。個別避難計画の作成は市区町村の努力義務で、こちらも本人の同意を前提に進められます。

Q. 対象になるかどうか、どこに問い合わせればよいですか?

A. お住まいの市区町村の防災担当課(防災安全課等)または福祉担当課(地域福祉課・高齢福祉課等)が窓口です。名称は自治体により異なるため、公式サイトの「避難行動要支援者」に関するページから確認するのが確実です。